AI活用

エンジニアが1人もいない制作会社が、AIだけで社内の仕組みを作った話

エンジニアが1人もいない制作会社が、AIだけで社内の仕組みを作った話

弊社は動画制作の会社で、エンジニアは1人もいません。それでも、社内で日常的に使っている仕組みのほとんどは、AIに書かせて自分たちで作りました。開発会社への外注はしていません。

この記事では、実際に作ったものを、使ったツール名と一緒に全部出します。同じことをやりたい方がそのまま真似できるように、業務を言語化するシートも置いておきます。

実際に作ったもの

作ったもの使ったもの人が残した判断
テロップを自動で入れる仕組みClaude Code/faster-whisper(large-v3)/ffmpeg公開前の全文確認と、固有名詞の直し
長尺動画からショート候補を切り出す仕組みClaude Code/文字起こし+スコアリングどの候補を実際に出すかの最終選択
担当チャンネルと競合の週次リサーチGoogle Apps Script/YouTube Data API/スプレッドシート数字を見て次の企画を決める部分
請求まわりの処理Node.js/Discord Bot(承認ゲート)金額の確定ボタンは必ず人が押す
このコーポレートサイトClaude Code/Cloudflare Pages掲載する数字の正しさの検証

共通しているのは、「作業」は渡して「判断」は残すという切り分けです。ここを混ぜると、必ずどこかで事故ります。

実例1:テロップ入れを「作る作業」から「直す作業」に変えた

動画編集で最も時間を食う工程のひとつがテロップ入れです。これを次の順番で分解しました。

  • ①無音カット:ffmpegで音量がしきい値を下回る区間を検出し、前後に余白を残して切る(弊社は −30dB/最短無音0.35秒あたりを基準にしています)
  • ②文字起こし:faster-whisperのlarge-v3をローカルで動かす。APIに送らないので、クライアントの未公開素材を外に出さずに済みます
  • ③テロップ整形:1枚あたりの文字数、改行位置、句読点の落とし方をルール化してAIに整形させる
  • ④書き出し:編集ソフトに読み込める形式で出力し、編集者はタイムライン上で直すだけの状態から始める

ここで効いたのは技術ではなく、③のルールを人間が言葉にできたことでした。「なんとなくこの辺で切る」を「1枚13文字以内、助詞では改行しない、笑い声はテロップにしない」まで落とすと、AIは同じ判断を毎回再現します。

実例2:週次リサーチは「集める時間」をゼロにした

担当チャンネルと競合チャンネルの数字を毎週手で見に行くのをやめ、Google Apps Scriptで自動収集してスプレッドシートに書き込む形にしました。

  • YouTube Data APIの検索機能はコストが高いので使わず、各チャンネルのアップロード一覧を巡回する方式にして無料枠内に収めています
  • 再生数の絶対値ではなく、そのチャンネルの平常運転と比べて何倍伸びたかでスコアを付ける(登録者規模が違う相手と比べられるようにするため)
  • 毎週決まった曜日に自動実行し、伸びた動画だけが一覧に上がってくる

結果として、集める時間がなくなり、見て考える時間だけが残りました。企画会議の入口が「今週何が伸びたか」から始まるようになったのが一番の変化です。

実例3:お金が絡むものは、必ず人が押すボタンを残す

請求まわりは自動化の効果が大きい反面、間違えたときの損害も大きい領域です。弊社は2段階にしました。

  • 第1段階:内容を集計して「請求内容の確認」としてDiscordに投稿する(この時点では何も確定しない)
  • 第2段階:人が内容を見て絵文字リアクションで承認すると、そこで初めて確定処理が走る

この形なら、AIが間違えても「変な確認が飛んできた」で終わります。不可逆な操作の直前に人間を挟むという原則さえ守れば、自動化の範囲はかなり広げられます。

作る前にやること:業務の言語化シート

ここが本題です。弊社がやったことの9割は、コードを書くことではなく手順を言葉にすることでした。自動化したい業務があるなら、まずこのシートを埋めてみてください。埋まらない項目がある業務は、まだ自動化できません。

【業務名】 【今やっている人】 【頻度】週◯回/1回あたり◯分 【手順】 1.(画面名・ボタン名まで具体的に) 2. 3. 【判断が入るところ】どこで、何を見て、どう決めているか 【例外】これが起きたら止めて人に聞く、というケース 【完了の定義】何ができていれば終わりか 【触らせないもの】金額の確定/外部への送信/データの削除 【1回あたりの許容ミス】ゼロが必須か、後から直せるか

特に重要なのが「判断が入るところ」と「触らせないもの」の2行です。前者が書けないと自動化しても品質が落ち、後者を決めないと事故が起きたときに取り返しがつきません。

つまずいた3つのこと

同じことを始めるなら、この順番で

期間やること終わりの合図
1〜2日目毎週繰り返している作業を全部書き出す(月1回の作業は対象外)10件くらい並ぶ
3日目そのうち「文章・分類・下書き」に化けるものを1つだけ選ぶ1件に絞れる
4〜5日目上の言語化シートを埋める例外と完了の定義まで書けている
6〜7日目AIに作らせて、まず自分だけで使う手作業より速くなっている
2週目チームに渡して、承認ゲートの位置を決める自分以外が回せている

最初の1件で「手作業より速くならなかった」場合、原因はたいていAIではなく業務側にあります。手順が人によって違う、例外が多すぎる、そもそも毎回やる必要がない、のどれかです。その発見自体に価値があります。

何が変わったか

テロップ入れは「作る作業」から「確認して直す作業」に変わりました。週次リサーチは、数字を集める時間がなくなり、見て考える時間だけが残りました。

ただ、いちばん大きかったのは時間そのものより、思いついた改善をその日のうちに試せるようになったことです。以前なら「便利そうだけど外注するほどではない」で消えていたアイデアが、その日の午後に形になって、ダメならその日のうちに捨てられる。この回転の速さが、結果的にいちばん効きました。

実際、自社チャンネル「やなぎ【田舎でも動画編集ライフ】」は、391本の運用で登録者1.3万人まで成長していますが、この本数を回せているのは制作の周辺作業を仕組みに寄せているからです。

よくある質問

自社の話ではなく「どこから着手すべきか」を知りたい方は、AI導入・活用支援サービスに費用感と手順をまとめています。

プログラミングができなくても、本当に作れますか?

弊社は書けません。ただし「作りたいものを言葉で正確に説明する力」は必要です。エラーが出たときにその内容をAIに貼って直してもらう、という往復を面倒がらない人であれば進められます。逆に、業務を説明できない人がAIに丸投げしても形になりません。

費用はどれくらいかかりますか?

弊社の場合、追加でかかったのはAIの利用料と、一部の外部サービスの月額だけです。開発費という形の支出はありません。なお、中小企業がAIを含むITツールを導入する場合、中小企業庁の「デジタル化・AI導入補助金2026」のような支援制度が使えることがあります。補助率・補助上限は申請枠ごとに異なり(通常枠は補助率1/2以内、補助額5万円〜450万円)、要件も年度ごとに変わるので必ず最新の公募要領を確認してください。

クライアントの素材をAIに渡すのが不安です

妥当な不安です。弊社は未公開素材を扱う文字起こしを、外部APIではなくローカルで動くfaster-whisperに寄せています。「何を外に出して、何を出さないか」を先に決めておくのが現実的な対処です。個人情報・未公開情報・契約書の類は入力しない、といった社内ルールを最初に作ることをおすすめします。

作ったあと、誰が保守するんですか?

自分たちです。だからこそ「自分たちが読める範囲の作り」に抑えています。外注して作ってもらうと、直したいときに毎回見積もりと納期が発生します。小さく作って自分で直せる状態のほうが、結果的に長く使えます。